GTD(Getting Things Done)の中核概念のひとつである「コンテキスト」は、もともと「電話が使える場所」や「オフィス」「出先」など、物理的・ツール的な条件によってタスクをグルーピングするために使われてきました。しかし、クラウドの普及によりどこでも仕事ができる時代になり、場所やツールだけでコンテキストを設定しても機能しづらくなっています。
そこで注目されはじめているのが、「考える」「書く」などの思考様式や作業種類をベースにしたコンテキスト設計です。デジタルプロダクトデザイナーの視点からは、「ブレインストーミング」や「ワイヤーフレーム作成」などプロセス別に設定すると、タスク選択がスムーズになりやすいというメリットがあります。
以下では、「思考様式」「作業種類」をコンテキストの軸に据える理由と、具体的な設定方法、運用のコツを詳しく解説します。
1. 従来のコンテキスト分けが抱える課題
1.1 場所やツールの制約が減少
かつては「自宅にいないとできない仕事」「会社のオフィスでしか使えないPC」といった制約が明確にありましたが、現在はノートPCやクラウドツール、スマホアプリなど、どこからでもアクセスできる環境が整っています。そのため、「@電話」「@オフィス」のような従来型の区分だけでは、分類してもあまり意味がない場合が増えてきました。
1.2 タスクのモードが複雑化
デジタルプロダクトデザイナーの場合、プロジェクトの各フェーズで必要となるタスクは多岐にわたります。アイデア発想から実装、ユーザーテスト、フィードバック収集まで、場所やツール以上に、求められる思考モードや作業内容の違いが大きい。従来の「@PC」「@外出先」では、同じPCでも「考えごとをするのに最適なタイミング」と「単純なデータ入力や修正をこなすタイミング」はまったく異なる、という問題が生じます。
2. 「思考様式」「作業種類」をコンテキストとするメリット
2.1 同じモードのタスクをまとめて処理できる
- 考える系:ブレインストーミング、構想を練る、情報整理など。
- 書く系:仕様書やブログ記事などのライティング、プロジェクトドキュメント作成。
- デザイン系:ワイヤーフレーム、プロトタイプ制作、ビジュアル検討。
- コミュニケーション系:ミーティング、チャット対応、メール対応。
これらをまとめておくと、同質のタスクを続けて進められるため、集中の質や効率が高まりやすくなります。
2.2 エネルギーレベルや時間帯に合わせてタスクを選びやすい
たとえば、朝のほうが思考が冴えているなら「考える系」を優先し、午後は作業レベルの高い「書く系」や「デザイン系」を回す、といった具合に、自分のコンディションに合ったタスク選択がしやすくなります。
2.3 プロダクト開発プロセスに紐づけられる
- リサーチ・要件定義
- アイデア出し・ブレインストーム
- ワイヤーフレーム・設計
- プロトタイプ製作
- テスト・検証
- ドキュメント作成や振り返り
- コミュニケーション・周知
開発フローの各段階で必要なタスクを“思考様式”ベースで整理できれば、次にどんなタスクが必要かを可視化しやすく、全体の進行も把握しやすくなります。
3. デザイナー目線のコンテキスト例
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アイデア発想系(Think)
- ブレインストーミング、マインドマップ、情報収集
- 雑多な情報を集め、創造的に組み合わせる
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設計・構造化系(Structure)
- 要件抽出、画面フロー作成、情報アーキテクチャの整理
- 論理的思考が求められ、デザインツールやドキュメントと行き来する場合が多い
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ビジュアルデザイン系(Design)
- ワイヤーフレーム・モックアップ・UIデザイン
- FigmaやSketch、Photoshopなど専用ツールを使い、集中して作り込む
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ライティング系(Write)
- 仕様書やエラーメッセージの文言検討、ブログやSNS投稿の執筆
- 論旨をまとめる文章作成がメイン
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検証・評価系(Test/Validate)
- ユーザビリティテスト、A/Bテスト結果の分析、データ検証
- 設定したツール(Google Analytics等)の画面を見ながら仮説を検証
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コミュニケーション系(Communicate)
- チームミーティング、ステークホルダー調整、クライアントとの打ち合わせ
- ZoomやSlackなどの同期・非同期コミュニケーション
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雑務・メンテナンス系(Admin/Misc)
- メール処理、ツール更新、経費精算、ちょっとした事務作業
- 集中力をあまり必要としないタスクが多い
4. コンテキストを設計する際のポイント
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必要最小限の区分から始める
細かく分けすぎると管理が煩雑になります。まずは「考える(Think)」「書く(Write)」「コミュニケーション(Communicate)」「実作業(Design/Testなど)」という大きめの分類からトライしてみましょう。 -
自分の脳の切り替えとエネルギーレベルを意識
「考えるモード」から「書くモード」への切り替えは、意外と大きなエネルギーを要します。連続的に集中して一気に進めたいタスクをひとまとまりにできるよう、コンテキストを設定しておくと効率的です。 -
物理的制約も考慮に入れる
「Wi-Fiが必要」「Figmaが動くPCが必要」「静かなカフェでないと難しい」など、従来型のコンテキスト(場所・ツール)が完全に不要になるわけではありません。必要に応じて、「Think@移動中」「Communicate@オンライン会議ツール」など、一部をブレンドするのも一つの手です。 -
プロジェクトフェーズに合わせた調整
アイデアの種を集めるリサーチフェーズなのか、ワイヤーフレームをガッツリ作り込むフェーズなのか、あるいはユーザーテストの準備が必要なのかによって、必要とするコンテキストの粒度や優先度は変化します。定期的なレビュー(週次レビューなど)で改善していきましょう。 -
「他者依存」の有無を意識する
チームメンバーやクライアントからの回答を待っている、あるいはユーザーヒアリングの予定が組まれている……など、誰かの協力が必要なタスクは、コミュニケーションのコンテキストとは別に「他者依存」というタグをつけるなど、リスク管理として把握しておくと便利です。
5. 効果的な運用のためのコツ
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週次レビューで調整
1週間単位でタスクを振り返り、「コンテキストをもう少し増やした方がいいか?」「逆に減らした方が運用しやすいのではないか?」を考えます。 -
プロジェクト開始時に大まかなコンテキストを仮決め
プロジェクトの見通しを立てる際に、想定されるタスクの種類を洗い出し、それに基づいてコンテキストを設定しておく。あらかじめ準備しておくことで、タスク登録時に迷わず分類できるようになります。 -
タスクの粒度に気を付ける
GTDの前提として、タスクを実行レベルにまで落とし込むことが大切です。たとえば「新機能のデザインをする」だけだと漠然としすぎるので、「リサーチ」「要件まとめ」「ラフスケッチ」「モックアップ作成」「レビュー依頼」など、より具体的なレベルに分解してコンテキストを割り当てると運用がスムーズになります。
6. まとめ
- GTDのコンテキストを「考える」「書く」などの思考様式・作業種類を軸に再設計することで、タスク選択がしやすくなり、集中力を最大化できる。
- デジタルプロダクトデザイナーの立場からは、「アイデア発想」「設計・構造化」「ビジュアルデザイン」「コミュニケーション」「検証・評価」などのプロセスに紐づけると、より実践的。
- 細かく区分しすぎると管理が煩雑になるため、必要最小限のスタートを心がけ、週次レビューなどで継続的に調整・最適化を図ることが重要。
従来の「場所・ツール」ベースだけでなく、“どんなモードの思考や作業が必要か”という観点でコンテキストを設計してみましょう。そうすることで、自身のエネルギーレベルや時間帯に合わせ、必要な集中力や創造力をうまくコントロールしながら、タスクを処理する手助けとなるはずです。デジタルプロダクトデザイナーというクリエイティブかつロジカルな作業を求められる領域では、こうした柔軟なコンテキスト設計が特に有効となるでしょう。