デザインは事業に複利をかける
なぜ「複利」なのか
金融における複利は、元本に加えて利息にも利息がつく仕組みである。デザインの価値もこれと同じ構造を持つ。一度の制作が継続的に収益を生み、その収益がさらなる成長の土台となる。AIの活用は代替と拡張の2極に分かれ、各々コスト削減と価値増幅をもたらすという分類において、デザイナーは明確に「価値増幅」の側に位置する。
単発の作業で終わる仕事と、時間とともに価値が積み上がる仕事がある。デザインは後者である。AIはクリエイティブプロセスの時間を短縮するが、ストーリーと表現という本質的価値は変わらないからこそ、その本質的価値が時間軸で複利的に効いてくる。
売上に複利をかける
ブランドの認知蓄積
ロゴやビジュアルアイデンティティは、時間が経つほど消費者の記憶に定着する。購買の瞬間、無意識に選ばれる確率が上がっていく。DXにおけるUXデザインの必要性は人間とテクノロジーを架け橋する役割にあるように、デザインは企業と顧客の間の信頼関係を可視化する媒体でもある。
コンバージョンの累積改善
ECサイトのボタン配置を最適化すれば、すべての訪問者に対して効果が持続する。月100万訪問で0.1%改善は、月1,000件の追加購入。1年で12,000件、3年で36,000件。AI時代のUXデザインはプロトタイプの高速生成と検証が全てを決定する時代において、この検証サイクルを高速で回せるデザイナーは複利効果をさらに加速させる。AI時代のプロダクト開発は高速な言語化・可視化・反復プロセスによって競争優位を実現するというのも、同じ文脈で理解できる。
ユーザー体験による口コミ効果
優れたUIは使うたびにユーザーの満足度を高め、それが口コミとなって新規顧客を呼ぶ。AIを活用することで、アイデアの具現化と仕事の効率化が飛躍的に向上することで、このサイクルを回す速度自体も上がっている。
利益に複利をかける
デザインシステムの効率化
[Design Opsはデザインプロセスを効率化し、チームの生産性を向上させる](Design Opsはデザインプロセスを効率化し、チームの生産性を向上させる.md)という考え方が示すように、一度構築されたデザインシステムはすべてのプロジェクトでコストを削減する。10プロジェクトで使えば10倍、100プロジェクトで使えば100倍の効果。これが複利の本質である。
一度の設計が繰り返し価値を生む
製品パッケージは販売が続く限り店頭で機能する。アプリのUIはユーザーが触れるたびに体験を形作る。AI時代においてデザイナーは文脈の翻訳者として生成物を削り出す役割を担うとされるが、その「削り出された」成果物が長期間にわたって価値を生み続けることこそがデザイナーの事業貢献の本質である。
デザイナーは投資対象である
経営者はデザイナーを「コスト」ではなく「投資」として捉えるべきである。AI時代のデザイナーの価値はオーケストレーション能力による統合的価値創造にあるという指摘は、デザイナーが単なる制作者ではなくレバレッジポイントであることを示している。
AIネイティブスタートアップのデザインは従来の10倍速での価値創造と市場適合を実現する必要がある時代において、複利効果は加速している。2024年のスタートアップの始め方・考え方を考えるうえでも、デザイン投資の複利効果を理解することは不可欠である。AI時代の仕事の本質はAI出力のディレクション力にあり、人間には創造性と批判的思考が不可欠となるという観点から見ても、デザイナーのディレクション能力こそが複利を生む源泉となる。
結論
デザインの価値を正しく測るには、時間軸を伸ばす必要がある。今日の制作物が1年後、5年後、10年後にどれだけの累積価値を生むか。優れたデザインは売上と利益の両面で事業に複利をかけ続ける。