#### 発売初期の一時的な成功とその後の急速な失速
フォード・エドセルは、事前のマーケティング施策が功を奏し、発売初日に6500台という出荷台数を記録し、一見上々のスタートを切ったかのように見えた。しかし、発売開始からわずか数日で売れ行きに陰りが見え始め、黒字ラインとされた一日600台の販売台数に対し、実際には300台程度の実績しか出せなくなった。広報担当の責任者であったゲイル・ワーノックは、9月中旬には危機的状況であることを察知し、他の幹部も10月初旬には破滅の前兆を感じ取っていた。
#### 製品自体の問題点
エドセルが直面した問題の根本は、製品そのものの品質にあった。納車時のオイル漏れ、ボンネットやトランクが開かない、デザインの象徴であった押しボタンが機能しないなど、初期段階で発生したトラブルが影響を与えた。これらの問題は、エドセルが消費者が自動車に求める「安心して快適に移動できる」という中核的価値を満たしていなかったことを示している。
#### 「当たり前品質」の欠如とその影響
エドセルの事例は、製品が消費者にとっての「当たり前」の品質を満たしていなかったことが、失敗の大きな要因であることを浮き彫りにしている。顧客は、中核的価値に関することを特に語ることはないが、それはそれが語るまでもなく当たり前だと思っているからである。エドセルの開発陣は、押しボタンなどの顧客にとって目新しい機能を優先するあまり、製品の基本的な品質と信頼性を確保することが後回しになってしまった。
#### 製品開発における教訓
エドセルの失敗から得られる教訓は、製品開発において中核的価値の提供が最優先されるべきであり、デザインやマーケティングの前に製品自体の品質が確保される必要があるということである。製品の中核的価値を満たすことができなければ、どんなに革新的なデザインやマーケティング施策も土台から崩れ去る。したがって、製品開発においては、まず基本となる品質の確保に注力し、その上で追加の価値を提供することが成功への鍵である。
### 参照
[[📖世界失敗製品図鑑]]
> 事前のマーケティング施策が功を奏し、発売初日の出荷台数は6500台となり、エドセルは上々のスタートを切ったかのように見えました。しかし、発売開始からわずか数日のうちに売れ行きに陰りが見え始めます。黒字ラインと言われていた一日600台という販売台数に対して、300台程度の実績しか出せなくなっていました。広報担当の責任者であったゲイル・ワーノックは、9月中旬には危機的状況であることを察知していたといい、他の幹部も10月初旬には破滅の前兆を感じ取っていたといいます。
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> では、具体的にそのタイミングで何が問題だったのか。初期段階で明確に影響を与えていたのは、製品そのものに欠陥があったということです。納車時にオイルが痛れていたり、ボンネットやトランクが開かなかったり、デザインの象徴でもあった押しボタンが機能しなかったりする不具合も発生しました。
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> 11月に入ると売上低迷の傾向は顕著になり、社内外の評判は明確に変化します。かつては絶賛されたデザイナーのロイ・ブラウンがエドセル低迷の戦犯的な扱いを受け始めるのはこの頃からです。そして、大手ディーラーからも販売低迷を理由にエドセルの契約打ち切りの打診を受けます。
> この事例は、古くから「ダメなマーケティング事例」として紹介されてきました。ネーミングやデザインが費者不在のまま検討されてしまったという理由がもっともらしく語られます。しかし、事例を丹念に精査すると、問題は「マーケティング」とくくってしまえるほど単純ではないことに気づきます。
> まず、このエドセルの事例で私たちが着目すべきは、マーケティング以前のこと、つまり製品そのものの品質に関わる問題です。消費者が自動車に求めていることは、デザインやネーミングといった抽象的な価値の前に、「安心して快適に移動できること」という具体的な中核的価値でした。しかし、エドセルは、発売間もない時点でのトラブルの連続により、その中核的価値に不安を感じさせてしまいました。製品というのはその大前提を満たすからこそ、初めて次のフェーズであるデザインや機能で戦うことができます。この順番は決して逆になりません。つまり、中核的価値を満たしていない製品は、そもそも土に立てないのです。
> さらに言えば、顧客はインタビューなどを通じて中核的価値のことを語ることはほとんどありません。そんなことは語るまでもなく当たり前だと思っているからです。
> もちろんエドセルの開発陣もバカではありませんので、その点を理解していなかったわけではないでしょう。しかし、それでもエドセルに陥が見られたのは、シンプルにエドセルの開発が難しかったからにほかなりません。「押しボタン」など顧客にとって目新しいものを全て取り揃えることを優先した結果、確率的に陥が出やすいプロダクトになってしまったのです。ものづくりを疎かにしたつもりはないものの、デザインや広告手法など先のフェーズばかりに目を奪われてしまっていたことで、結果的にものづくりの優先順位が下がってしまった。そこに課題があったのです。
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