ブランディングにおける発注関係の本質
ブランディングは単なる視覚的なデザイン制作ではなく、ブランディングとしての価値提案と顧客関係構築のプロセスである。発注側がブランディングを依頼する際、そのアプローチは大きく二つに分かれる。一つは「一緒に作っていきたい」という協働型のアプローチであり、もう一つは「クリエイティブをお買い上げしたい」という購買型のアプローチである。この二分化はブランディングの難しさは多くの要因に起因するに関連し、プロジェクトの進行方法や成果物の質に大きな影響を与える。
ブランドコンセプトの本質とその重要性を考えれば、どちらのアプローチを選択するかは単なる好みの問題ではなく、ブランド構築の根幹に関わる戦略的判断である。発注側の目的と関与度によってアプローチが異なるのは、ブランディングは道の整備のようにブランドの価値と顧客関係を整えるプロセスであるという性質に起因している。
「一緒に作っていきたい」協働型アプローチの特徴
協働型アプローチの本質
「一緒に作っていきたい」アプローチでは、発注側がブランディングプロセスに積極的に参加し、クリエイティブ側との緊密な連携を図る。このアプローチはブランディングと顧客関係の構築における長期的なパートナーシップを重視する姿勢の表れである。
協働型アプローチでは、プロジェクトの進め方の基本は目的の明確化、行動計画の策定、スケジュール管理の3要素で構成されるという原則に基づき、発注側とクリエイティブ側が共に目的を明確化し、計画を立て、進捗を管理していく。この過程でコミュニケーションデザインが重要な役割を果たし、両者の認識のずれを防ぐ。
協働型アプローチのメリットと課題
メリットとしては、発注側の意図や組織文化が深くブランディングに反映される点がある。これはブランディングと顧客関係の長期的な良好性にとって重要な要素である。また、プロセスを通じて組織内のブランド理解が深まり、内部浸透が図りやすくなる。
一方で、このアプローチは発注側にとって「大変」という側面がある。十分なリソースと時間の確保が必要であり、プロジェクトマネジメントの負荷が増す。この負担の大きさから「他の人に頼む意味ない」と感じるリスクがある。つまり、外部のクリエイティブに依頼する価値と、自社で行う労力のバランスが取れなくなる状況が生じやすい。タスク管理において行動と時間の管理を分離することで、より効果的な生産性向上が実現できるという観点からも、この負担の大きさは正当に評価されるべきである。
クリエイティブ側からすれば、発注側の頻繁な介入によってクリエイティブは一人で作った方が細かいところまで調整するコストが下がるため、クオリティが上がるという原則に反し、作業効率が低下するリスクもある。プロジェクトノートの作り方などをマスターし、効率的な協働のための仕組みを整えなければ、両者にとって消耗戦となりかねない。
プロセスへの不安と耐性
協働型アプローチの重大な心理的障壁として、デザインプロセスは非線形であるという特性がある。デザインプロセスに慣れていない発注側は、途中経過を見て大きな不安を感じることが多い。特にデザインプロセスにおけるビジュアル的な試行錯誤の重要性を理解していないと、初期の探索的なアイデアやラフスケッチの段階で「これは期待していたものと違う」という危機感を抱きやすい。
この不安に耐えられるかどうかが、協働型アプローチの成否を左右する重要な要素となる。不安耐性の低さは約束重視文化の裏返しであり、組織の硬直化と大本営的マネジメントをもたらすことを理解し、プロセスへの信頼を築く必要がある。
プロジェクトには「仮説立案・合意フェーズ」と「仮説検証・評価フェーズ」があり、仮説立案が最も労力がかかるという側面も考慮すると、発注側は不確実性の高い初期フェーズにおいて特に強い不安を感じることが多い。この不安を適切に管理し、クリエイティブプロセスの自然な流れを阻害せずに進めるためには、デザインの進化過程への理解と信頼が不可欠である。
「クリエイティブをお買い上げしたい」購買型アプローチの特徴
購買型アプローチの本質
「クリエイティブをお買い上げしたい」アプローチでは、発注側は主に要件定義と成果物の評価に関与し、プロセスは基本的にクリエイティブ側に委ねる。これは専門家雇用の本質は責任の委譲と時間価値のトレードオフにあるという考え方に基づいている。
このアプローチでは、「勝手に進めて欲しい。けど、いいものを買いたい」という矛盾する要望を満たすために、初期のブリーフィングと評価基準の明確化が特に重要となる。デザインファームの本質と未来の役割が発揮されるのは、まさにこのようなケースである。
購買型アプローチのメリットと課題
メリットとしては、発注側のリソース負担が軽減される点が挙げられる。また、クリエイティブ人材は従来の枠組みを超えた発想と問題解決能力を持つ価値創造の担い手である特性を活かし、専門家の創造性を最大限に引き出せる可能性がある。
課題としては、発注側のビジネス目標と成果物の間にギャップが生じるリスクがある。これはコミュニケーションの目的、成果、論点の明確化が成功の鍵となるという原則が徹底されないことに起因する。また、プロセスへの関与が限定的なため、最終成果物に対する「自分たちのもの」という当事者意識が醸成されにくいという問題もある。
クリエイティブ側にとっては、クリエイティブのスキルは資本主義とは本来相容れないスキルであるという点から、純粋に作品としての質を追求できる環境が得られるメリットがある一方、発注側のビジネス要件との適合性を確保する難しさも伴う。
アプローチ選択の判断基準
組織の内部リソースと専門性
発注側の組織内にコミュニケーションデザイナーのような専門性やリソースがどの程度あるかが判断基準となる。リソースが限られている場合は購買型アプローチが現実的だが、その場合でもブランド刷新の意義を理解し、最低限の関与は必要である。
ブランディングの目的と重要度
ブランディングが組織の中核戦略に関わる場合は、協働型アプローチが望ましい。一方、限定的な目的や短期的なプロジェクトであれば、購買型アプローチの効率性が優先されることもある。これは目的が常に先にあるという原則に従った判断である。
プロジェクトの時間的制約
緊急性の高いプロジェクトでは、購買型アプローチの方が時間的効率は良い。しかし、タスクの準備段階における見通しの重要性が作業効率と成果の質を決定づけることを考慮すれば、初期段階での十分な協働は欠かせない。
両アプローチの融合と実践的バランス
実際のブランディングプロジェクトでは、純粋な協働型や純粋な購買型ではなく、両者のバランスを取ることが多い。例えば、コミュニケーションデザインとプロダクトデザインは異なる目的と手法を持つ専門領域であることを踏まえ、戦略立案段階では協働型、制作段階では購買型というように、フェーズによってアプローチを使い分けることが効果的である。
このバランスを取るには、デザイン分野の共通項を理解し、各フェーズでの役割分担を明確にすることが重要である。また、ミッションの明確化と最小限の情報伝達が効果的な仕事の遂行を可能にするという原則に従い、発注側はクリエイティブ側に対して過不足ない情報提供を心がけるべきである。
ブランディング発注の成功に向けた実践的アプローチ
明確なブリーフィングと評価基準の設定
どちらのアプローチを選択するにせよ、初期段階での明確なブリーフィングは不可欠である。ジョブ定義文は製品開発の方向性を明確にする重要なツールであるという考え方を応用し、ブランディングの目的と期待される成果を具体的に定義することが重要である。
評価基準については、デザインで必ず発生する誤差のマージンを考慮に入れつつ、主観と客観のバランスが取れた基準を設定すべきである。このプロセスではデザインリファレンスを集める時に使うサイトなどを活用し、視覚的な参考事例を共有することも有効である。
適切なフィードバックのタイミングと方法
協働型では頻繁なフィードバックが前提となるが、購買型でも重要な節目でのフィードバックは欠かせない。建設的なフィードバックを行うためのコツを実践し、クリエイティブの意欲を削がないよう配慮しながら、必要な修正点を伝えることが重要である。
長期的なブランド管理体制の構築
ブランディングは一度の制作で終わるものではなく、継続的な管理が必要である。ブランディングと顧客関係の長期的な良好性を維持するためには、発注側が最終的にはブランドの所有者となり、適切に管理できる体制を整えることが不可欠である。
結論
ブランディングの発注アプローチは、協働型と購買型の二つに大別されるが、どちらが「正しい」というわけではない。それぞれの組織の状況や目的に応じて、最適なアプローチやその組み合わせを選択することが重要である。
発注側が「一緒に作っていきたい」と考えるなら、それは大変な作業を伴うことを理解し、必要なリソースと時間を確保する覚悟が必要である。一方、「クリエイティブをお買い上げしたい」と考えるなら、専門家の創造性を信頼し、適切な評価基準と明確なブリーフィングを提供することが成功の鍵となる。
いずれの場合も、判断力の向上には必要な情報の理解が必要であり、ブランディングの本質と発注アプローチの特性を十分に理解した上で判断することが、成功するブランディングプロジェクトへの第一歩である。