#### 概要
古代中国の思想家、墨子(紀元前470頃~紀元前391頃)は、儒教の中心的な価値観である「仁愛」に対抗し、「兼愛」という思想を提唱した。この「兼愛」とは、全ての人々を区別なく平等に愛するという考え方であり、墨子によれば、これが侵略戦争を生まない「非攻」の状態をもたらす唯一の方法であるとされる。
#### 「兼愛」の意味
「兼愛」とは、特定の個人や集団に対する愛情ではなく、すべての人を同等に愛することを意味する。この概念は、儒教が説くような血縁や身近な関係に基づく愛情の差別化を否定し、全人類を対等に扱うことを主張する。
#### 実現の難しさ
墨子は「兼愛」の理念が理論上は正しく、理想的な状態を生み出す可能性を持つと認識していた。しかし、この思想が人間の本能や自然な感情に反するため、実際に実現することは極めて困難であるとも指摘している。人間は自然と自己や親しい者への愛情を優先させる傾向があり、全ての人を平等に愛する「兼愛」の実践は、この本能を超えることを要求する。
#### 「非攻」への影響
「兼愛」に基づく社会では、自分と他者の間に差別を設けず、すべての人間関係を平等に扱うことから、戦争や侵略のような攻撃的な行動を取る動機が減少すると考えられる。このため、墨子は「兼愛」が「非攻」の理想的な状態を実現する鍵であると考えた。
#### 結論
墨子の「兼愛」思想は、儒教の「仁愛」とは異なる全人類平等の愛を提唱し、理論上は侵略や戦争を無くす可能性を持つ。しかし、その実践は人間の本能に反し、実現は非常に難しいとされる。この思想は、理想と現実のギャップを浮き彫りにすると同時に、平和への深い洞察を提供する。
[[📖リーダーシップ進化論]] P63