2025年以前
2026-02-21

キャリアをどう描くか。この問いに対して、よく使われるメタファーが二つある。「川下り型」と「山登り型」である。一方は流れに身を任せながら進み、もう一方は頂を定めて登る。このシンプルな対比の背後には、キャリア論における根本的な思想の対立がある。

山登り型:頂から逆算する

山登り型とは、明確なゴールを設定し、そこに向かって一歩ずつ登っていくキャリアの進め方である。「5年後にマネージャーになる」「40歳までに独立する」といった具体的な到達点を定め、そこから逆算して今やるべきことを決める。

このアプローチは、経営戦略における戦略計画学派と創発戦略学派についての「計画学派」に相当する。1960年代に主流だったこの考え方は、SWOT分析のようなフレームワークで環境を分析し、最適な戦略をトップダウンで策定するというものだった。キャリアに当てはめれば、自分の強み・弱みと市場の機会・脅威を分析し、最適なキャリアパスを「設計」するということになる。

山登り型の強みは、方向性がぶれないことにある。目指す頂が見えているから、途中で迷っても軌道修正ができる。努力の蓄積が段階的な成長として実感できるため、モチベーションも維持しやすい。

一方で、山登り型には脆さもある。頂そのものが間違っていた場合——あるいは環境の変化で山自体が消えた場合——積み上げてきたものが一気に意味を失うリスクがある。「この山を登ることが本当に自分の望みだったのか」と気づくのが、頂上に着いた後だったという話は珍しくない。正解がわからない問いに対しては「逆算」ではなく「順算」アプローチが有効で指摘されているように、ゴールが明確な受験勉強には逆算が効くが、「どんなキャリアが自分を幸福にするか」という問いには逆算は機能しにくい。

川下り型:流れの中で方向を見出す

川下り型とは、あらかじめ到達点を定めず、目の前の流れに乗りながらキャリアを形成していく方法である。偶然の出会いや予期しない機会を積極的に受け入れ、そこから学び、次の方向を見つけていく。

経営戦略では、これはMintzbergが提唱した「創発戦略」に対応する。組織内の日々の経験や学習を通じて自然発生的に形成される戦略であり、ボトムアップで生まれる。キャリアにおいても、意図的に計画したわけではない経験の積み重ねが、結果的に独自のキャリアを形成するという発想である。

キャリア理論の文脈では、Krumboltzの「計画された偶発性(Planned Happenstance)」理論がこの型の理論的支柱となる。この理論は、キャリアにおける偶然の出来事を積極的に活用することを提唱し、そのための5つの姿勢——好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、リスクテイク——を重視する。つまり、川下り型は「ただ流されている」のではなく、「偶然を引き寄せる態度」を能動的に維持するアプローチである。

川下り型の強みは適応力にある。時代のコンテキストを的確に捉えて、柔軟に変わり続けることが、生き延びるコツであるという視点に立てば、変化の激しい時代にはむしろ川下り型の方が生存戦略として優れている場合がある。多様な経験を通じて予想外のスキルの組み合わせが生まれ、それが独自の強みになることもある。

ただし、流されているだけでは漂流になる。川下り型であっても、目の前の流れを選ぶ判断基準——自分の価値観や興味——は持っていなければ、どこにも辿り着かない。

二つの型の統合

実際のキャリアは、どちらか一方だけで成り立つわけではない。目標は計画ではなく方向性であるという考え方が示すように、大まかな方向性(山の稜線)は持ちつつ、具体的なルートは状況に応じて変える(川を下る)という統合型が、実践的には最も多い。経営戦略においても「長期的な方向性は計画学派、市場変化への対応は創発戦略」というハイブリッドが主流になっている。

探究型キャリアステージモデルは長期的な自己実現と社会貢献のための効果的な指針であるというモデルも、この統合的な視点を内包している。ケイパビリティ探究期(20-30代)では好奇心に基づいて技を磨き(川下り的)、アイデンティティ探究期(30代半ば〜)では「自分が何のために働いているのか」を再定義する(山登り的)。つまり、キャリアステージによって適切な型は自然に切り替わっていく。

仕事は「なりたい状態」を実現する手段であり、やりたいことの追求だけでは持続可能なキャリアは構築できないという視点も示唆に富む。「やりたいこと」を追う川下り型だけでは不十分で、「なりたい状態」という北極星を持つことで、川下りにも方向性が生まれる。

重要なのは、自分が今どちらの型にいるのかを自覚し、その選択が意図的であることだ。川下りが「流されている」のではなく「探索している」と言えるかどうか。山登りが「惰性で続けている」のではなく「目指している」と言えるかどうか。仕事の報酬は成長である:キャリア発展の本質的価値というように、どちらの型を選んでも、そこに成長の実感があるかが一つの判断基準になる。