経済圏に繋ぐという発想
事業を構想するとき、プロダクトやサービスの中身から考え始めることが多い。だがそれ以前に、「この事業をどの経済圏に繋ぐか」という問いがある。この問いを飛ばすと、プロダクトが良くても伸びない。
ここでいう経済圏とは、特定のプラットフォームやエコシステムに限った話ではない。もっと広い。世の中にはすでにお金と人が流れている構造がいくつもある。その構造のどこに自分たちのサービスを差し込むか。既存の流れの「この部分」を置き換えるのか、「この部分」に新しく接続するのか。そういう視点のことだ。
経済圏は「お金の流れの構造」全体を指す
たとえば、BtoBのSaaSを作るとき、プロダクトの機能を磨くだけでは足りない。スケールするには営業部隊が必要で、その営業組織の規模と接点が、事業の経済圏そのものを広げていく。Salesforceが強いのはプロダクトだけでなく、巨大な営業・パートナーネットワークという経済圏を持っているからだ。
既存のお金の流れを見たとき、どこに非効率やペインがあるか。その非効率を解消する形で「この部分」を置き換えれば、すでに流れているお金がそのまま自分たちの売上になる。逆に、まだお金が流れていない場所に新しくサービスを置いても、流れ自体を作るところから始めなければならない。
事業の核はターゲットとソリューションの掛け算であり、デザインや体制はその増幅装置にすぎないという整理があるが、その掛け算の結果をどの経済圏に載せるかで、増幅のされ方が全く変わる。
「置き換え」と「接続」の二つのアプローチ
既存の経済圏に対するアプローチは大きく二つある。
一つは「置き換え」。すでにお金が流れているバリューチェーンの中で、非効率な部分を自分たちのサービスに差し替える。請求書処理の自動化、紙の契約書を電子化するサービスなどがこれにあたる。お金の流れは変えず、流れの中の特定ノードを入れ替える。初速が出やすいのは、既存の流れに乗っているからだ。
もう一つは「接続」。既存の経済圏に新しい価値を繋ぎ込む。決済手段の追加、新しいチャネルの開拓、APIで異なるシステムを繋ぐ。こちらは経済圏自体を拡張する動きになる。
ビジネスモデルを起点とした事業戦略の構築が成功への近道であるが、ビジネスモデルの設計において「置き換え」なのか「接続」なのかを明確にしておくと、必要なリソースも打ち手も変わってくる。
営業組織も経済圏の一部
見落としがちだが、自社の営業組織やパートナーネットワークも経済圏の構成要素だ。どれだけ良いプロダクトを作っても、それを届ける経路がなければお金は流れてこない。
営業部隊の規模と質が、事業がアクセスできる経済圏の大きさを決める。だから「まずプロダクトを作って、売れるようになったら営業を増やそう」という順番だと遅い場合がある。経済圏への接続手段として営業組織を最初から設計に組み込む必要がある。
売れるようにしてから作るという原則も、裏を返せば「お金が流れる経路を先に確保してからプロダクトを作れ」ということだ。
スケーラビリティは経済圏の大きさで決まる
技術の進歩により、従来のビジネスの境界線が曖昧になり、新たな価値創造の機会が生まれている。境界線が曖昧になったことで、一つの事業が複数の経済圏に跨がれるようになった。だが同時に、どの経済圏に軸足を置くかの判断はより難しくなっている。
事業のスケーラビリティは、接続先の経済圏の大きさに制約される。年間1000億円が動いている経済圏に接続すれば、理論上はその一部を取りに行ける。年間10億円の経済圏に接続すれば、上限もそこに引っ張られる。
プラットフォームと仕組みづくりの重要性と未来が指摘するように、プラットフォームを作る側に回るということは、自分たちの経済圏を作るということだ。それは最も野心的な選択肢だが、成功すれば他者の事業が自分たちの経済圏に接続してくる構造ができる。
問いの順番
事業を考えるとき、最初に問うべきは「何を作るか」ではない。「世の中のどのお金の流れに接続するか」「そのお金の流れのどの部分を置き換えるか、あるいはどこに新しく繋ぐか」「その経済圏を広げるために何が必要か(営業組織か、パートナーか、プラットフォーム化か)」。
価値とは、人が行動を変えるほどの”意味”や”効果”であるが、その価値を届ける先の経済圏の設計が、事業の天井を決める。事業成功のための持続可能なビジネスモデルと製品・サービスを考えるとき、プロダクトの中身と同じ重みで、経済圏への接続設計を扱うべきだ。