原典はこちら。COTEN RADIO「【66-13】皇帝だってメンタルケア!『自省録』に込めた心の処方箋」。四つのペルソナの説明は18分45秒〜21分34秒ごろ、具体的な解釈は23分48秒〜24分43秒ごろ。
人間に共通する性質、個人の特徴、偶然与えられた境遇、自分で選ぶ生き方を分けると、現在の自分を形づくる条件と、その中で選択できることを整理できる。番組では、ストア派哲学における人格の捉え方として、四つのペルソナが紹介されている。自分や状況を分析する目的は、自分が動かせるものを見定め、そこへ注意を向けることにある。
一人の人間を四つの側面から捉える
ここでのペルソナは、人格を理解するための概念である。一人の人間について、次の四つの側面を分けて考える。
| ペルソナ | 番組での説明 | 番組に登場する例 |
|---|---|---|
| 普遍的ペルソナ | すべての人間に共通して存在する性質 | 人間であることに共通する特徴 |
| 個別的ペルソナ | その人に固有の特徴や個性 | 足が速い・遅い、腕力が強い・弱い |
| 偶然的ペルソナ | 偶然や巡り合わせによって与えられる境遇 | 王位に就く、財産を得る |
| 選択的ペルソナ | 自分の選択によって決まる生き方や関わり方 | 哲学に向かう、市民法に関わる、軍人になる |
普遍的ペルソナは、人間である以上共有している条件を扱う。個別的ペルソナは、その共通性の中にも存在する個人差を扱う。共通する性質と固有の特徴を分けることで、人間一般の話をしているのか、ある人の特徴の話をしているのかを区別できる。
偶然的ペルソナには、その人の意思だけでは決まらない立場や境遇が含まれる。同じ人でも、どのような機会に出会い、何を与えられたかによって、置かれる状況は異なる。選択的ペルソナは、その状況の中で自分が何を選ぶかを扱う。職業や進路のような大きな選択に加え、番組後半では、出来事の受け止め方や反応にもこの考え方が使われる。
関係性に基づくアイデンティティでは、他者との関係や社会的な文脈が自己認識に関わることを扱っている。四つのペルソナは、そうして形成された自分について、共通性、個性、境遇、選択を区別して考える手がかりになる。
与えられた条件と、これからの選択を区別する
番組では、世界には人間の意思だけでは動かせない秩序があり、その中で理性に基づいて選択するというストア派の考え方が説明される。四つのペルソナは、この説明を具体化するために登場する。自分の置かれた状況を分けて捉えれば、何を自分で動かせるのか、何に集中すべきかを考えやすくなる。
自分に与えられた特徴や境遇への不満だけを考え続けていると、その中で可能な選択を検討する機会が減る。番組では、自分で選べる部分に集中することを、幸福につながる態度として説明している。受け取った条件に対して、どう理解し、どのように行動するかが問われる。
なお、普遍的・個別的・偶然的ペルソナの三つを宿命として受け取るという整理は、番組内でも話者の解釈として述べられている。参照した本には、そのように直接書かれていなかったという留保がある。四分類の紹介と、その分類を宿命と選択に対応させる解釈は、区別して記憶しておく必要がある。
他者の評価と、自分の反応を分ける
番組では『自省録』を読みながら、誠実に生きても他者がそれを信じてくれない場合を取り上げる。他者から信じてもらえない状況は、自分の意思だけで決められない。そこから何を考え、どのように反応するかについては、自分の選択が関わる。
この例では、他者の反応を偶然的ペルソナに関わる事柄として捉え、自分の受け取り方や振る舞いを選択的ペルソナの問題として捉えている。認めてもらえないという出来事と、それに怒って自分の行動方針を失うことを、一続きの必然として扱わないための整理である。
この区別は、メタ思考で扱う、自分の判断や前提を思考の対象にする方法とも関連する。何が起きたのか、その出来事に自分がどんな意味を与えたのか、その判断に基づいて何をしようとしているのかを分ける。自分の解釈を言葉にできれば、その解釈を採用し続けるか、別の捉え方を検討するかも問い直せる。
日常への応用では、状況を具体的に分ける
以下は、番組の四分類を仕事や生活へ応用するための整理である。
たとえば、新しい役割を任された場面では、自分の得意不得意、その役割に就くことになった事情、今から選べる行動が同時に存在している。それらを一括して「向いていない」と判断すると、何が難しいのかが曖昧になる。得意不得意は個別的ペルソナ、任命された事情は偶然的ペルソナ、必要な知識を学ぶことや周囲へ相談することは選択的ペルソナに関わる、と分けて検討できる。
仕事の期待と役割の理解、自己効力感、周囲の受け入れを扱うノートとも関連する。役割への適応を考えるなら、自分の能力についての認識だけでなく、期待されている仕事の内容や、支援を受けられる関係も確認の対象になる。
出来事を整理するときには、次の問いを使える。
- 人間に共通する性質と、その人に固有の特徴はそれぞれ何か。
- 自分の意思だけでは決まらなかった条件は何か。
- その条件の中で、今から選べる判断や行動は何か。
- すでに起きた事実と、自分が加えた解釈を混同していないか。
環境の変化がアイデンティティに与える影響で扱うように、職場や家庭の変化によって役割も自己認識も変わる。その都度、現在の条件を整理し直すことで、以前の境遇に基づく判断をそのまま使っていないか検討できる。
個性の固定化や、結果への自己責任化を避ける
四分類を日常に使う際は、個別的ペルソナを「一生変わらないもの」と即断しない方がよい。番組では足の速さや腕力が個人差の例として挙がるが、この紹介だけから、訓練や経験による変化まで否定することはできない。経験に伴う価値観や役割、アイデンティティの変化も踏まえ、現在の特徴と、変化する余地を分けて考える必要がある。
同様に、自分の行動を選べることと、望んだ結果を確実に得られることも異なる。誠実に説明することを選んでも、相手が納得するかどうかまでは決められない。選択できる範囲を整理する際には、行動の選択と、その結果を区別する。
番組では『自省録』について、書かれた理想を常に実践できていた証拠とは限らず、実践できない自分へ繰り返し語りかけた記録として読む解釈も示される。選択的ペルソナへの集中も、感情を瞬時に制御できるという能力の宣言として読む必要はない。実際に取った行動を振り返り、次の場面でどのように振る舞うかを考えるという、繰り返しの実践として捉えられる。