2026-02-11

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属人性という甘い罠

仕事において「自分にしかできない」という状態は、一見すると価値の高さの証明に見える。「あの人がいないと回らない」と言われることに、ある種の誇りを感じる人も多いだろう。しかし、この属人性こそが最も危険な罠である。

属人性が高いということは、裏を返せば自分がいなくなった瞬間に組織が機能不全を起こすということだ。これは組織にとってリスクであると同時に、本人にとっても呪いとなる。そのポジションから永遠に動けなくなるからだ。昇進もできず、異動も休暇も取れず、自分の時間を切り売りする働き方に一生縛られることになる。

仕組み化という発想の転換

仕組み化とは、個人の能力に依存せず、誰がやっても一定の品質を保てる状態を作ることである。マニュアル化、ルールの整備、テンプレートの作成、チェックリストの導入など、再現性を高めるあらゆる取り組みがこれに該当する。プラットフォームと仕組みづくりの重要性と未来が示すように、仕組みは個人の能力を超えたスケーラビリティを組織にもたらす。

重要なのは、仕組み化は「手を抜く」ことではないという点だ。むしろ、自分の暗黙知を形式知に変換し、他者が再現可能な形に落とし込むという高度な知的作業である。「自分がやった方が早い」という気持ちを抑え、「どうすれば自分なしでもこの品質を維持できるか」を設計する。これはリーダーやマネージャーに求められる最も本質的なスキルの一つだ。

なぜリーダー経験なしには仕組み化できないのか

プレイヤーとして優秀であればあるほど、仕組み化の発想は生まれにくい。自分の能力で解決できてしまうからだ。しかし、一度でもチームを率いる側に回ると、すぐに「自分が全部やる」のは物理的に不可能だと気づく。そこで初めて「どうすれば自分がボトルネックにならずに済むか」という問いが生まれる。

マネジメントの成功は個人の特性を活かした柔軟な判断基準と育成アプローチにあるのように、チームメンバーはそれぞれ異なる強みと弱みを持っている。全員を自分と同じレベルに引き上げることは現実的ではない。だからこそ、個人の能力差を前提として、それでも一定の品質を担保する仕組みを設計する必要がある。

この経験から逃げ続けるということは、責任の取捨選択と集中がプロフェッショナルな成果と持続可能性を両立させるで言うところの、自分の責任範囲を「自分の手が届く範囲」に限定し続けることを意味する。

仕組み化は「複利」をもたらす

個人の作業は線形的だ。1時間働けば1時間分の成果しか出ない。しかし仕組みは違う。一度作れば、それが10人に使われれば10倍、100人に使われれば100倍の成果を生む。デザインは事業に複利をかけると同様に、仕組み化もまた組織に複利をかける行為なのである。

自分の時間を切り売りする働き方から脱却し、自分が作った仕組みが価値を生み続ける状態を作れるかどうか。これがリーダー経験の有無で最も差がつく領域の一つであり、30代後半はキャリアや人生の大きな節目であり、アイデンティティを再編成することが重要であるというキャリアの転換点においても、仕組み化の経験は決定的な差を生む。自分の価値を「手を動かす量」ではなく「仕組みが生み出す成果の総量」で測れるようになったとき、働き方のパラダイムは根本的に変わるのである。