📖イシューからはじめよ P171
『イシューからはじめよ』で挙げられる脳の神経系の4つの特徴は、情報に気づく条件と、情報を理解し記憶する条件を考える手がかりになる。閾値と不連続な差は、入力の何が認知されるかに関わり、情報のつながりとその反復は、理解と記憶に関わる。この整理を説明や学習に応用すると、情報量に加えて、認知できる違いと、他の情報との関係を検討する必要がある。
閾値を超えない入力は意味を生まない
閾値とは、ある反応が起きる境目を指す。原典の第1の特徴は、入力が存在することと、その入力が意味を生むことの間に条件があると捉えるものだ。情報を提示した側が、提示したという事実だけで、受け手にも意味が伝わったと判断すると、この条件を見落とす。
説明への応用では、伝えたい内容を受け手が認知できる形にすることが課題となる。たとえば、資料の全項目を同じ大きさ、同じ色、同じ調子で示した場合、どの項目に注目してほしいかは受け手の判断に委ねられる。伝えたい数値を他の数値から区別し、その数値が何を意味するかを添えれば、注目してほしい対象と、その理由を示せる。
この応用で検討すべきなのは、強調の大きさだけではない。何を比較し、何を判断してほしいのかも、情報の提示方法に含まれる。すべてを強調すれば、各項目の優先順位を表せなくなる。説明を作る際には、受け手に認知してほしい対象を選び、その対象を周囲の情報から区別する必要がある。
不連続な差と比較の基準
原典の第2の特徴は「不連続な差しか認知できない」である。これを情報表現に応用するなら、何かが違うと述べる際に、比較する対象と、違いを判断する基準を示すことになる。単独の数値や特徴だけでは、受け手にとって何が際立っているのかが定まらない。
たとえば、ある施策の結果を伝えるときには、実施前と実施後を同じ指標で比べる。複数案を示すときには、同じ項目について各案を並べる。前後で集計期間や対象者が異なれば、表示された差には施策以外の違いも含まれる。差を認知しやすくすることと、その差を適切に解釈できることの両方が必要になる。
人は比較して初めて判断できるでは、比較によって価値や質を判断することを扱っている。この関係から考えると、比較対象の選び方は、受け手が認知する違いにも影響する。どの案と比べるか、どの時点を基準にするかによって、同じ対象の別の特徴を示せる。
認知しやすい差を示すために、実際には小さい違いを大きく描くと、理解の正確さを損なう。図の縮尺や分類の境界には、説明する側の判断が含まれる。差の大きさと、判断上の意味をそれぞれ説明できる比較が望ましい。
理解するとは情報同士の関係を把握することである
原典の第3の特徴は「理解するとは情報をつなぐこと」である。新しい情報を既に知っている概念や経験と関連付け、その位置付けを説明できる状態として、理解を捉えられる。原因と結果、全体と部分、原則と具体例、共通点と相違点などが、情報をつなぐ関係に当たる。
情報を結びつけて知識体系を作ることが大事では、情報の関連付けと、自分の言葉で説明できるようにすることを知識の体系化として扱っている。ある用語の定義を読んだ後に、その用語がどの問題を説明するか、似た用語とどこが違うかを考えることは、理解をこの意味で進める行為になる。
関係を説明する際には、その関係の種類を区別する必要がある。二つの出来事が同時に起きたことと、一方が他方の原因であることでは、主張の内容が異なる。ある例に原則が当てはまることと、すべての例に当てはまることも異なる。情報をつなぐときには、そのつながりをどの事実から説明できるかが問われる。
知識を「文脈に置く」ことは情報の価値を最大化し、深い理解と創造的な洞察を促進するで扱う文脈化も、この関連付けの実践である。情報を得た背景や適用する場面を残せば、後で読む人は、その情報が何についての説明なのかを判断できる。同じ言葉を知っていても、想定している背景や事例が異なれば、理解の内容には違いが生じる。
情報をつなぎ続けることが記憶に変わる
第3の特徴が情報間の関係を理解として捉えるのに対し、第4の特徴は、その関連付けを繰り返すことを記憶に結び付けている。一度つながりを見つけた後も、同じ概念を別の情報や場面と照合するという時間の要素が加わる。
この特徴を学習に応用するなら、学んだ内容を別の事例に当てはめたり、過去の経験をその概念で説明したりする方法が考えられる。ある本で読んだ原則を仕事の判断に用い、結果を振り返る際に再びその原則を検討する。その過程で、原則が当てはまった条件や、説明できなかった点も関連付けの対象になる。
説明を読んだ直後に関係を説明できることと、後から必要な場面でその関係を思い出せることは、別々に点検できる。学習の記録では、理解した時点の説明に加えて、実際に使った場面と、その際に分からなくなった点も残すと、次に見直す対象を具体的にできる。
Atomic noteを反復的に見直すことの重要性で述べる、想起、書き直し、新しい関連ノートの探索は、この考え方に対応する。ノートのタイトルから内容を思い出し、本文と照合する。最近得た知識との関係を書き足す。以前の説明を現在の理解で書き直す。それぞれ、既に記録した情報と改めて関わる方法である。
繰り返し関連付けた内容についても、正確さを点検する必要がある。類似した事例ばかりを結び付けると、適用条件の違いを見落とすおそれがある。反例や例外を検討することも、情報をつなぎ続ける活動に含められる。
ノートにはリンクを置いた理由を残す
この4つの特徴をノート作成へ応用すると、何を一つの主張として区別し、その主張を他の知識とどう関係付けるかが具体的な検討対象になる。Atomic noteの単一性と自己完結性は、主張の範囲を定めるための条件として使える。一つのノートで扱う主張を定め、他のノートを開かなくても、その主張と理由が分かるように書く。
関連リンクには、同じ用語が登場するという理由に加えて、内容上の関係を残す。あるノートが原則を述べ、別のノートがその具体例を述べるなら、その関係を文中で説明する。意見が異なるノートをつなぐ場合は、前提や適用する場面の違いを書く。リンクをたどる人が、二つの情報を比較し、関係を検討できる記述にする。
メモ作成時になるべく文脈を記すでは、背景や目的、情報の関連を残すことを扱っている。数か月後の自分も、書いたときの前提をすべて覚えているとは限らない。何と比較して気づいたのか、どの条件なら使えるのか、どこまでが確かめられているのかを書き残せば、後からそのつながりの妥当性を検討し直せる。