2026-09-10

蒸気機関、電力、コンピュータのように、多くの産業の基盤となる技術を「汎用技術」と呼びます。経済協力開発機構(OECD)の2025年の論文は、幅広い用途への適用、継続的な性能改善、周辺で新しい技術や仕組みを生むことをその特徴として挙げています。人工知能(AI)のうち、文章や画像などを生み出す生成AIについても、汎用技術となる可能性を論じています。OECDの論文

技術を活用する設備や人材、組織への投資は「補完投資」と呼ばれます。全米経済研究所(NBER)の2017年の論文は、AIへの期待と、投入した労力や資源に対する成果を表す「生産性」の統計との隔たりを検討しています。過大な期待や測定の難しさなど複数の説明のうち、導入や、活用を支える技術・仕組みの整備に時間がかかる点を重視しています。NBERの論文

ここからは、蒸気機関からAIまでの技術転換を順にたどります。時代の区分は説明上の整理であり、それまでの技術や設備、事業、蓄積したデータも、新しい技術と重なり合って使われています。

蒸気機関——工場に動力と働き手が集まる

蒸気機関は、燃料から機械を動かす力を得る手段になりました。人や動物の力、水の流れなどを利用していた生産に、新たな動力が加わったのです。機械設備への投資や燃料の供給、製品への需要と結びつき、機械と働き手を集めて生産する工場制の発展を支えました。

工場では、原料を加工し、次の工程へ送り、製品に仕上げる一連の作業を組織する必要があります。機械の導入とともに、工程を分担する働き方や、生産量、作業時間を管理する仕組みが重要になりました。機械を保守し、燃料や原料を継続的に調達する体制も欠かせません。

工場が働く場所として発達すると、仕事を求める人々が集まります。工業の発展は都市化とも結びつき、住居や交通など、働き手の生活を支える環境への需要も生まれました。生産を支える動力の普及が、働く場所や生活の場にも関わっていったと捉えられます。

電力——動力の使い道が広がり、大量生産と家電消費を支える

蒸気機関が工場の動力を支えるなか、電力の普及は、動力を届ける方法や使う場所に新たな選択肢をもたらしました。個々の機械にモーターを組み込めば、工程に合わせて設備を配置しやすくなります。工場では、電動の設備と生産工程の見直しが結びつき、大量生産を支えました。

その利用には、発電した電気を届ける送電網や、電気で動く機器への投資が必要です。工場に電気が届いても、設備や作業の配置が以前のままであれば、新しい動力の利点を十分に生かせない場合があります。設備と作業の配置を改めるための投資も、導入の一部になります。

電力の利用は家庭にも広がりました。冷蔵庫や洗濯機などの家電が、食品の保存や家事の進め方に組み込まれます。家庭が機器を購入し、電気を使い続ける消費は、家電の製造・販売や電力供給の事業と結びつきました。工場での生産と家庭での利用の双方に、電力を前提とする仕組みが育っていったのです。

コンピュータ——計算と記録が業務システムに組み込まれる

電力が生産や暮らしのさまざまな動作を支える一方、コンピュータは計算や記録の処理を担うようになります。給与の計算、売上の集計、在庫の管理など、企業の事務にも利用が広がりました。仕事の過程で生じる情報を、継続して蓄積し、処理できる業務データとして扱うことが重要になります。

たとえば在庫を管理するには、商品名や数量を入力する形式をそろえ、誰がいつ記録を更新するかを決める必要があります。売上の記録と在庫を照合できれば、補充する商品の判断にもつなげられます。計算する機械に加え、データと業務の手順を一体で整える取り組みが求められました。

こうした仕組みを設計・運用する役割を、情報システム部門が担うようになりました。担当者は各部門の仕事を理解し、必要なソフトウェアを用意し、情報へのアクセス権限や運用方法を管理します。業務データを複数の部門で使うには、情報の意味や更新の手順を共有する必要があります。計算を速くすることに加え、その計算結果を組織としてどう利用するかが課題になりました。

インターネット——検索が情報への入口となり、売買と広告が広がる

インターネットの普及によって、コンピュータは顧客や取引先とつながる窓口にもなりました。通信の仕組みと、情報を閲覧するブラウザが広く使われることで、人は離れた場所の商品を調べ、比較し、注文できるようになります。ネット上で商品やサービスを売買する電子商取引には、商品を紹介する画面のほか、支払いや配送を結びつける仕組みも必要になりました。

情報や商品が増えるなかで、その発見を助ける検索エンジンや、売り手と買い手をつなぐ通販の場が、顧客との接点を担います。企業には、こうした場所で商品やサービスを見つけてもらう取り組みが必要になります。広告を掲載する場所も広がり、閲覧やクリックの記録が、広告や販売方法を検討する材料に加わりました。

新聞がまとめて提供していた、情報の編集、配信、広告にも再編が起きました。新聞社が作った記事を、さまざまな情報への入口となるポータルサイトが紹介し、複数の媒体の記事や広告と組み合わせて届けます。一体だった機能が分かれる「アンバンドル」と、別の形に組み合わされる「リバンドル」の例として捉えられます。

新聞社にとっては、取材や編集の力を生かしながら、ネット上で読者を獲得する方法にも投資することが課題になります。紙を届ける設備や販売網を維持する費用と、新しい読者との接点を育てる費用を、限られた人員や資金のなかで配分する判断が求められます。

スマートフォン・SNS——持ち歩く端末が、配信・課金・推薦の窓口になる

スマートフォンは、インターネットとの接点を移動中や買い物の最中にも広げました。アプリストアは、ソフトウェアを配信する経路に加え、利用者がアプリを探し、購入する場にもなります。開発・配信・課金の環境がそろうことで、企業は携帯端末向けのサービスを届けやすくなりました。アプリの購入や継続利用に料金を払う仕組みも、この接点に組み込まれます。

交流や情報発信の場であるSNSでは、人とのつながりや、おすすめを提示する推薦機能を通じて情報に出会います。自分から検索する行動に、投稿を眺めるなかで商品やサービスを知る経路が加わりました。記事や動画、広告が同じ画面にまとめられ、利用者の関心に沿って組み合わされます。

スマートフォンやSNSからは、位置や行動、人間関係に関するデータも得られるようになりました。それまでの業務記録や閲覧・クリックの記録と併せて、利用者の行動を理解する材料になります。企業には、店舗やウェブサイトの運営に加え、アプリやSNS上の接点への投資判断が求められました。利用画面や機能、情報の届け方を継続的に改善するには、企画、デザイン、開発、運用を担う人の連携も必要になります。

AI——目的と条件を伝え、判断支援から実行までを任せる

検索や推薦が情報との出会い方を広げてきた流れに、AIによる相談と作業支援が加わります。利用者が目的や条件を言葉で伝え、候補の比較や判断材料の整理を求める使い方です。その先には、複数のサービスを利用する作業を、一つの依頼としてまとめる可能性があります。

従来のソフトウェアにも、決められた条件や手順に従う実行の自動化があります。AIを組み合わせると、依頼の解釈、作業手順の提案、外部サービスの操作をつなぐ用途が考えられます。仮に利用者がAIの提案を通じて商品やサービスを選ぶなら、AIを提供する企業が新たな仲介を担うことになります。利用者が何を選べるかは、提案の基準や接続するサービスにも左右されます。料金についても、任せる仕事の範囲に応じて支払う仕組みが選択肢になるでしょう。

会話には、目的や予算、時間の制約、比較の経緯が含まれ得ます。これらは行動の背景を理解する手がかりですが、一時的な考えや仮定も混じります。保存する情報とその用途、本人が訂正する方法を定める必要があります。

実行を任せるには、外部サービスへの接続に加え、利用者本人であることの確認、AIに許す操作の範囲、支払い、実行結果を確認する仕組みが必要です。たとえば出張の手配なら、候補の比較を任せ、料金や取り消し条件を人が確認してから予約を確定する分担が考えられます。条件の解釈に誤りがないかを点検し、予約が成立したかを予約先の記録で確認する工程も必要です。誤った予約を修正する方法や、人へ引き継ぐ条件まで決めることが、業務への導入に含まれます。

歴史上の技術転換では、利用の仕方、顧客との接点、設備や組織への投資が関わり合ってきました。その組み合わせや進み方は産業ごとに異なります。AIの導入効果も、処理の速さに加え、提案の妥当性や誤操作、確認・修正の負担を含めて評価する必要があります。AIに任せる作業と、人が判断を引き受ける場面を、その検証に基づいて定めていくことが重要です。