2026-02-20

AIは誰もが同じものを使える。ChatGPTもClaudeもGeminiも、同じモデルに同じプロンプトを投げれば、同じような答えが返ってくる。では、AIを使う人の間に生まれる差は何か。

コンテキストだ。あなた固有の文脈、経験、判断基準の蓄積。

自分のプロジェクトの経緯、過去に学んだ教訓、今週の優先順位。こうした情報をAIに渡せるかどうかで、返ってくるものはまるで違う。問題は、この自分のコンテキストが頭の中に散らばっていて、必要なときに取り出せないことだ。

この問題に対する自分なりの答えとして、GTD(Getting Things Done)とZettelkasten(ツェッテルカステン)をClaude Codeで自動化する個人ナレッジマネジメントシステムを作った。半年以上運用してきて、コンテキストを蓄積し、蒸留し、活用するというサイクルが、AI時代の知的生産の基本形になりうると感じている。


蓄積、蒸留、活用

このシステムの根っこにある考え方は単純だ。

まず蓄積。日々の仕事の中で生まれるメモ、ふと浮かんだアイデア、気になったことを、とにかく流し込む。きれいに整理する必要はない。

次に蒸留。AIが蓄積された情報を分類し、構造化する。すぐやるべきアクション、誰かの返事待ち、将来のアイデア、学びとして記録すべき気づき。ノイズの中から意味のあるものを抽出する。

そして活用。蒸留されたコンテキストを元に、AIが今日やるべきことを提案し、作業を伴走し、完了を記録する。蓄積されたコンテキストが多いほど、提案の精度が上がる。

このサイクルを1日単位で回し続けると、コンテキストに複利が効き始める。数ヶ月前にメモした気づきが、今日のプロジェクトの判断材料としてAIから提示される。そういうことが自然に起きるようになる。


3つの柱

このサイクルを動かすために、3つの仕組みを組み合わせた。

GTDで行動を管理する

デビッド・アレンが提唱したGTDは、頭の中の気になることをすべて外部に書き出し、意味を見極め、適切な場所に振り分けるメソッドだ。

やるべきことを全て信頼できるシステムに預けることで、目の前のことに集中できる。ただ、GTDには運用の手間という課題がずっとあった。毎日の見極めと振り分け、週次レビューを人力で続けるのは、正直しんどい。

Zettelkastenで知識を管理する

社会学者ニクラス・ルーマンが実践したZettelkastenは、1つのアイデアを1枚のカードに書き、カード同士をリンクで繋げていく知識管理法だ。

GTDが次に何をすべきかを管理するのに対し、Zettelkastenは何を知っているか、何を考えたかを管理する。行動と知識、両方のコンテキストを構造化することで、自分の第二の脳が形成される。

Claude Codeで蒸留を自動化する

Claude Codeは、AnthropicのAI Claudeをコマンドラインから使えるツールだ。ファイルの読み書きやGit操作ができる。

Claude Codeにはスキルという仕組みがある。特定の作業手順をmarkdownファイルとして定義しておくと、自然言語のトリガーで呼び出せる。「おはよう」「夜のレビュー」「これ終わった」と話しかけるだけで、定義した業務フローをAIが実行する。

この3つを組み合わせることで、人間は蓄積と最終判断だけを担い、蒸留のほとんどをAIに任せるという分業が成り立つ。


フローとストック

システムの中を流れるデータは2種類ある。

フロー(flow)は時間軸の入力

日付ごとのフォルダに、その日の情報が流し込まれる。

gtd/flow/2026-02-20/
├── note.md          ← デイリーノート(その日のメモ・考え・記録)
├── clarify.md       ← AIが生成する見極めファイル
└── daily-summary.md ← AIが生成する1日のサマリー

note.mdは読み取り専用の原本だ。1日の中で思いついたこと、やったこと、気づいたことを時刻付きで書き連ねる。きれいに書く必要はない。「15:17 ロゴのアサイン考える。まず相談かな〜」こんな調子でいい。

これが蓄積のレイヤーにあたる。

ストック(stock)は構造化された行動リスト

フローから蒸留された情報は、GTDの分類に従ってストックに格納される。

gtd/stock/
├── next-actions.md   ← 次にやること(コンテキスト別)
├── projects.md       ← 進行中プロジェクト
├── waiting.md        ← 誰かの返事待ち
├── someday.md        ← いつかやりたいこと
├── tickler.md        ← 日付リマインダー
├── horizons.md       ← 人生の目標・ビジョン
└── insights/         ← 日々の気づき・学びの蓄積

ストックは蒸留の結果であり、同時に活用のソースになる。AIはこのストックを参照して今日のおすすめタスクを提案し、プロジェクトの進捗を追跡し、見落としを検出する。

そしてZettelkastenが知識のストックとして並走する。

zettelkasten/
├── Notes/    ← アトミックノート(1アイデア1ファイル)
├── MoCs/     ← Map of Contents(ノート同士の地図)
└── Article/  ← 記事(この文章もここにある)

行動のストックと知識のストックを分けているのがポイントだ。今日やることと過去に考えたことは別の文脈で参照するから、混ぜないほうがいい。


1日のサイクル

このシステムの核は、朝と夜に回る日次サイクルだ。

夜のクロージングレビューで蒸留する

1日の終わりにクロージングと言うと、AIが蒸留を実行する。

まず、その日のデイリーノートを確認する。

次に、AIが各行を読み、GTD分類をインラインコメントとして付ける。

15:17 ロゴのアサイン考える <!-- → NA @Slack: ロゴのアサインについて相談する -->
16:40 デジタルデトックスしたい <!-- → Someday -->
11:33 あの整理資料、シンプルで大事だな <!-- → インサイト: 学び -->

この見極め結果はGitHub上のPull Requestとして表示されるので、自分の目で確認・修正できる。分類が違うと思えば直せばいいし、合っていれば「振り分けして」と言えばAIがストックに反映する。

最後に、全プロジェクトに次のアクションが紐づいているかをチェックする。アクションのないプロジェクトは止まっているということだから、警告が出る。

ここで大事なのは、最終判断を必ず人間がすること。AIは分類を提案するだけで、勝手にストックを書き換えない。Pull Requestというレビューの仕組みを挟むことで、AIの判断を人間が検証するバッファーを設けている。

朝のオープニングレビューで活用する

翌朝、おはようと言うとオープニングレビューが始まる。

AIは昨夜の蒸留結果を参照し、今日やるべきことの全体像を提示する。カレンダーの予定と照らし合わせて空き時間を算出し、この2時間でこのタスクがいけそうだと提案する。フォーカスするプロジェクトを選ぶと、関連するタスクが優先表示される。

体験としては、AIアシスタントとの朝の相談に近い。AIは自分のプロジェクト状況や待ち項目の状態を把握しているから、「15分ある。何やればいい?」と聞けば、文脈に合った提案が返ってくる。

日中はリアルタイムに更新する

日中は、思いついたことをデイリーノートに書き、タスクが終わったら「これ終わった」と報告する。AIがストックから該当タスクを見つけて削除し、次のアクションを聞いてくる。

頭の中がごちゃごちゃしてきたら「ブレインダンプ」と言って、気になることをひたすら書き出す。AIがストック全体を検索し、既存のプロジェクトとの関連を補完しながら分類してくれる。


なぜこの形になったのか

GTD原典への回帰

最初はもっと自分流にアレンジしていた。しかし運用するうちに、デビッド・アレンが原典で書いている設計には、やはり理由があることに気づいた。

たとえばプロジェクトは成果形で書くというルール。「デザインブリーフを作る」ではなく「デザインブリーフが完成している」と書く。最初は冗長に感じたが、成果形で書くと完了の定義が明確になり、AIが完了判定をしやすくなる。

コンテキストタグも同じだ。@Figmaはデザインツールでの作業、@思考は深い思考が必要な作業、@Quickは5分以内の小タスク。場所ではなく思考モードでタスクを分けることで、MTGの合間の5分と午前中の集中時間で適切なタスクを選べる。

自然言語トリガー

スキルの発動はすべて日本語の自然な発話で行える。おはようでオープニングレビュー、クロージングで夜のレビュー、これ終わったでタスク完了、気になること集めてでブレインダンプ。

意図的にこうしている。GTDツールが長続きしない理由の一つに、ツールを開いて操作するというコストがある。自然言語トリガーにすることで、AIとの日常会話の延長でGTDが回る。専用のUIを覚える必要がない。

AIと人間の境界

AIに任せているのはこのあたりだ。

  • デイリーノートの分類(GTDカテゴリの判定)
  • 既存プロジェクトとの関連付け
  • 完了タスクの検出と削除
  • プロジェクトとネクストアクションの整合性チェック
  • サマリーの生成

一方、人間が必ずやることもある。

  • デイリーノートへの記入(蓄積の元データ)
  • 見極め結果の承認(Pull Requestでのレビュー)
  • 今日フォーカスするプロジェクトの選択
  • 優先順位の最終判断
  • やるかやらないかの意思決定

AIが処理と提案を担い、人間が入力と判断を担う。この線引きがはっきりしていると、AIに振り回されている感覚がなくなる。自分の仕事を自分でコントロールしている実感を保てる。


コンテキストの複利

このシステムを使い続けていて一番面白いのは、蓄積が増えるほどAIの振る舞いが変わってくることだ。

モデル自体が学習するわけではない。しかしストックデータが増えるほど、AIが参照できるコンテキストが豊かになる。

ブレインダンプで「あの件、進めないと」と曖昧に書いても、AIはプロジェクト一覧や待ち状態、過去の気づきを横断検索して、該当するプロジェクトを特定し、今動けるのかどうかまで教えてくれる。

CLAUDE.md(AIへの指示書)やスキルファイルの蓄積も複利を生む。運用の中で「こういうケースはこう処理してほしい」というルールを追記していくと、それがAIの振る舞いに即座に反映される。3ヶ月前に追加したルールが、今日も正確に適用されている。自分専用のAIアシスタントが、日々の運用を通じて育っていく感覚がある。


得られた効果と気づき

頭の中が空でいられる

GTDの最大の恩恵は頭を空にできることだが、AIが運用を自動化したことで、この恩恵が安定的に得られるようになった。以前はレビューをサボるとリストが信頼できなくなり、頭の中で管理し始めてパンクする、というサイクルに陥りがちだった。AIが毎日の蒸留を確実に回してくれるおかげで、リストへの信頼が維持できている。

AIとの距離感が身につく

毎日AIと対話しながら仕事を回していると、何を任せて何を自分でやるかの感覚が身体化される。これはこのシステムの中だけでなく、他の場面でも活きている。

仕組み自体が育つ

このシステムは完成品ではない。日々の運用の中で使いにくさに気づいたら、スキルファイルを書き換えれば即座に改善できる。コードを書く必要はない。markdownでルールを書き換えるだけだ。自分のワークフローを自分で設計し、育てていけるこの感覚は、AIツールならではだと思う。


おわりに

AI時代に価値を持つのは、AIが汎用的に持っている知識ではなく、あなた固有のコンテキストだ。仕事の文脈、過去の判断、蓄積された気づき。これらを構造化してAIに渡せる状態にしておくことが、協働の質を左右する。

蓄積、蒸留、活用のサイクルは、特定のツールに依存しない考え方だ。GTDでなくてもClaude Codeでなくても、自分のコンテキストを貯めて構造化してAIに渡すという基本パターンは応用できる。

毎日少しずつコンテキストを蒸留し続けること。その積み重ねが、半年後のあなたとAIの関係を変える。