概要

起業家と右腕タイプの違いは、単なる役職や業務内容の差異ではなく、人生レベルでのリスクの取り方と不確実性への向き合い方という根本的な気質の違いに起因する。この区別を理解することは、組織デザインの概念とメカニズムを考える上で極めて重要であり、「全員起業家になれ」というスローガンが現実の人間の気質と組織構造を無視した危ういメッセージである理由を明らかにする。

起業家タイプの特性

人生を賭けた旗立て

起業家タイプとは、事業の存在そのものに人生単位でコミットする人間を指す。0→1の「この世にまだないものを存在させてしまう」行為がコアであり、失敗した場合に自分の信用・お金・キャリアが大きく削られても、それでもやるという覚悟を持つ。スタートアップ企業の創業者に見られるこの特性は、イノベーションと劣位の関係において重要な役割を果たす。

起業家は「最悪、全部失ってもやるか?」という問いに対して、かなり本気でYESを出しがちである。貯金・信用・キャリア・家族との時間など、かなり広い範囲をリスクに晒すことに耐えうる、あるいはそうしないと落ち着かないタイプだ。この不確実な状況を乗り切るために必要な二つの特性は、生来の気質に大きく依存している。

カオスへの親和性

起業家は「全部決まっていない状態」に、ある種の快感を覚える。悩むことと考えることの違いを認識することが、知的生産の基盤となるという観点からすれば、起業家は答えのない問いを抱え続け、その上で大きな意思決定・リスクテイクをし続けることに耐えられる存在である。逆に、整いすぎた環境や既に答えが見えている改善だけだと退屈してしまう。

彼らの視点は常に「世界がどう変わるべきか」「このプロダクト/サービスがある世界と無い世界の差」という外側に向けられている。プロダクトビジョンを語り、市場全体の構造を見据える時間が長いのが特徴だ。

右腕タイプの特性

設計されたリスクテイク

右腕タイプ(No.2 / COOなど)は、起業家のビジョンに強く共感し、「どう実現するか」にコアスキルを持つ人間である。プロダクトマネジメントや事業運営において、1→10、10→100のスケールや仕組み化に強みがある。

右腕もリスクは取るが、そのレベルと範囲を設計したいと考える。「全部燃やす」より「この範囲までは背負える、その代わり確実に前に進める」が得意であり、リスクマネジメント・現実感覚の感度が高い。この特性は組織としてものすごく重要な存在価値を生み出す。

秩序の抽出者

右腕はカオスを嫌いではないが、「フレームを作り、整えていくこと」に快感を覚える。カオスを永続させるのではなく、構築とデザインの関係性は逆転し、反復的構築とジャッジを通したデザイン昇華プロセスが重要性を増しているという視点に立ち、構造化の方向に持っていくことに才能がある。起業家の直感的な意思決定を、現実世界のオペレーションやチームに接続するのが得意だ。

彼らの視点は「この組織・チーム・プロダクトを、どう機能させるか」という内側に向けられている。プロジェクトマネジメント、組織設計、数字、KPI、人材配置など、システムを見ている時間が長い。

専門家タイプという第三の軸

起業家と右腕に加え、専門家タイプの存在も組織には不可欠である。特定の専門領域において、他者に代替されにくい「深さ」で価値を出す存在であり、デザイナーの共通項エンジニアとデザイナーの共通点と相違点に見られるような職能エキスパートがこれに該当する。

専門家タイプは、ナレッジ共有を通じて組織の「標準」を作り、品質基準の設計・レビュー力を発揮する。自分の専門知を他メンバーに分かる形で伝え、組織の底上げにつなげる役割を担う。専門性に立脚した仕事はニーズが局所的であり、組織構造や人材戦略に重要な影響を与えるという原則は、このタイプの価値を端的に示している。

「全員起業家になれ」が機能しない理由

リスク許容度の分布問題

人口全体で見れば、「全部賭けないと満足できない人」は少数派である。多くの人にとっては「好きな領域で、一定の安全圏を確保しつつ価値を出したい」が自然な欲求だ。人は経営リソースであり、非常に重要であるという認識に立てば、この多様性を前提とした人材マネジメントは6つの要素から構成され、効果的な運用が組織の成功につながることが理解できる。

組織の非対称構造

組織は、そもそも非対称な役割で構成されている。旗を立てる人は少数でよく、その代わり責任範囲が異常に広い。右腕・ミドル層・専門家がいないと、事業はすぐ崩壊する。「みんなが起業家的である組織」は一見強そうだが、実際にはバラバラに別事業をやりたがる集団になりがちである。組織規模ごとの課題を考えれば、この構造的問題は避けられない。

精神コストと持続可能性

起業家レベルの負荷(不確実性・孤独・資金繰り・解雇判断など)を、全員が長期間抱えるのは現実的ではない。プロスポーツ選手のように心技体を整えることで、仕事のパフォーマンスと成果を最大化できるという原則に照らせば、「一部の人が極端なカオスを背負い、多くの人がより限定されたカオスを引き受ける」構造でバランスを取る方が健全である。

右腕タイプの決定的価値

右腕タイプには起業家とは別種の「希少性」がある。起業家のビジョンを現場の行動・KPI・プロセスに翻訳できること、起業家の暴走(事業のスコープ拡大・優先順位のバラバラさ)を現実的なロードマップに整理できること、チームの心理安全性やカルチャーを守りながらハードな決断も実行できることが、その価値の核心である。

マネジメントの本質は人材資源の最大活用にあるという観点からすれば、うまくいっているスタートアップ/新規事業の多くは、強い起業家(ファウンダー)とそれを補完する強い右腕(COO/事業責任者/プロダクト責任者など)の「ペア」で成り立っている。

実務的な見立てのポイント

組織の中で「この人は起業家タイプか、右腕タイプか、専門家タイプか」を見る際には、以下の観点が有効である。

曖昧さに直面したときの反応として、混沌なほど燃え、自分で問題を定義しに行くなら起業家寄り、混沌を嫌がらずに「どう枠組みを作るか」に動き始めるなら右腕寄りと判断できる。相手の「将来の行動」を予測するためにコンピテンシーを使用するという面接テクニック:好きな作品に基づくシナリオ考察の応用である。

責任の範囲についても、「全部自分のせいでいいから、やらせてくれ」と言いがちなら起業家寄り、「この範囲を任せてくれたら、確実にここを強くする」と言うなら右腕寄りである。

健全な組織設計への示唆

「全員に起業家マインドを要求する」のではなく、自分の担当領域に対する当事者意識、小さい実験と改善の習慣、事業の数字とユーザー価値への感度を「共通ベースライン」として設計し、「人生ごと賭けて旗を立てるタイプ」と「旗を支えるタイプ」は役割・評価・キャリアステージを分けて設計するのが現実的で健全な落としどころである。

チームビルディングとマネジメントにおける資本主義的アプローチと社会主義的アプローチの分析を踏まえれば、起業家の数を適切に見立て、右腕・現場リーダー・専門家の役割をちゃんと称賛し、キャリアとして見える化する方が、組織としては圧倒的に健康だと言える。