2026-09-25

原典はこちら。「南場社長×新事業本部長|1on1を全公開」の19:58〜23:14。

Truth seekerとは、事業についての仮説を検証できる問いに分け、顧客や市場に接して証拠を得る人である。ユーザーが求めていること、競合が取り得る行動、事業が成立する条件を、実際の観察や実験によって調べる。その役割には、何を調べれば次の判断ができるかを決め、結果に応じて仮説を修正することまで含まれる。事業の探索における速さは、この検証と判断の間隔を短くすることで生まれる。

仮説のまま置かれている前提を、検証する対象にする

動画では、起業に必要な二つの役割として、プロダクトを作る人とtruth seekerが紹介される。後者の説明に使われるのは、あるプロダクトが特定のユーザーに求められるという見立てや、競合はある事業に参入してこないという予測である。そうした見立てを持ったら、実際に関係者へ話を聞き、判断の根拠になる証拠を得るまで行動する。大きな事業仮説を、できるだけ検証可能な単位へ分けることも、この役割に含まれている。

この説明で注目したいのは、検証の対象がプロダクトの使いやすさに限られない点である。市場の選び方や競争についての前提も、事業の成否を左右する。利用者が試作品を気に入ったとしても、購入を決める人が別にいれば、購入者の判断を調べる必要がある。顧客の好意的な反応だけでは、事業全体の仮説を検証したことにはならない。

想像や理想は仮説の原料であり、結論ではなく出発点として扱うで扱うのは、発想を検証へ進めるための姿勢である。Truth seekerという役割を置くと、チームが依存している前提のうち、どれが未確認で、誰がどの方法で調べるのかまで具体化できる。以下では、動画の説明を起点に、この役割を実務へ展開して考える。

検証の単位は、結果によって判断が分かれる大きさにする

「このサービスには需要がある」という仮説には、複数の前提が含まれている。対象となる人が問題を経験していること、その問題を解消したいこと、提案する方法を受け入れられること、利用や購入のために時間や費用を負担できることは、それぞれ別に調べられる。

たとえば、会議後の報告作成を支援するサービスを考える。利用候補者へ便利そうかを尋ねるだけでは、好意的な回答を得ても、何が事業成立の条件なのかは分からない。直近の会議後にどんな報告を作り、誰に提出し、どこで時間がかかったのかを聞く。実際の資料を使った試作品を試してもらい、そのまま提出できるか、どこを直す必要があるかを観察する。さらに、導入を決める人と予算の所在を調べる。それぞれの行動が、異なる前提への証拠になる。

この分解は、調査項目を増やすためのものではない。結果によって、対象顧客を絞る、機能を修正する、購入者へ話を聞く、開発を中止するといった判断ができる大きさにするためのものだ。グロースのゴールは検証できる問いが立っている状態であるで論じる、反証可能性・実行可能性・判断への意味という条件が参考になる。

顧客が現在どう対処しているかを知ることは、サービスへの賛否を集めることよりも、解決すべき問題の理解に役立つ。プロダクト開発の成功は顧客ジョブの理解と仮説検証にかかっているで扱う顧客ジョブとは、その人が特定の状況で成し遂げたいことである。提案した機能への反応を、この目的や現在の代替手段と照らして解釈する必要がある。

証拠に応じて判断を修正するところまでを、検証の速さに含める

動画では、仮説を持って実際に調べに行く速さが重視されている。この速さを実務で扱うなら、疑問が生じてから、判断に使える証拠を得るまでの時間に注目できる。打ち合わせや制作の件数が増えても、重要な前提が未確認のままなら、同じ不確実性を抱えて作業を進めていることになる。

検証を速めるには、着手前に、結果によって何を決めるかを明らかにしておく。顧客が困っていなければ対象を見直す、困っていても試作品を使えなければ方法を修正する、といった判断を想定する。予想外の結果が出たときにも、観察した事実とその解釈を分けて記録すれば、次に調べる対象を選びやすい。

反対の結果が出るたびに理由を後付けして仮説を守ると、行動量が増えても判断は更新されない。判断の正誤よりも行動による検証と改善が重要であるで扱う、行動から得た情報によって判断を改善する循環が必要になる。思い入れのある案でも、成立しない条件が分かれば、修正や中止を選べることが検証の価値である。

速さには、証拠の適用範囲を保つことも必要だ。一人が使わなかったという観察から分かるのは、まず、その人がその条件で使わなかったということまでである。対象顧客が違ったのか、利用の時機が違ったのか、価値が不足していたのかを区別する。小さな検証は、事業全体について性急に結論を出すためのものではない。

作る人と調べる人が、同じ仮説を共有する

動画で紹介される作り手は、特定のプロダクトへの固執が弱く、方針転換後も次のものを作る過程を楽しめる人である。Truth seekerが得た証拠によって方針を修正したとき、再び形にできる人がいることに意味がある。なお動画では、AIによってコーディングのあり方が変わった現在にも、この役割の説明がそのまま当てはまるかは検討が必要だという留保も示されている。

この二つの役割は、制作担当と調査担当を固定する組織図として読むよりも、事業探索に必要な仕事として捉えると使いやすい。同じ人が両方を担当する場合も、別の人が分担する場合もあり得る。必要なのは、何を知るために何を作り、誰のどんな反応を観察するかを共有することだ。

クリエイティブな仕事はプロトタイプを通じて実現されるで扱う試作品は、アイデアを具体化し、反応を得るために使える。作り手が試作品を用意し、truth seekerが実際の利用状況から証拠を得る。その結果を共有して、次の試作品で調べる対象を決める。作ることと調べることは、この往復によって互いの精度を上げられる。

流通している情報と、直接得た証拠を区別する

動画の後半では、情報が瞬時に広がり、SNSの仕組みによって特定の話が反響しやすい状況が語られる。そのなかで、読んだことや聞いたことを、実際の行動で検証する必要性が指摘されている。人に会うことの労力そのものを目的にせず、事業上の重要な前提について証拠を得るために動く、という理解ができる。

同じ主張を何度も目にするときは、それぞれが独立した観察なのか、一つの情報の転載や言い換えなのかを区別したい。複数の投稿が同じ発表を参照している場合、投稿数の多さは証拠の数を意味しない。元の発表に戻り、何が実測され、何が予測されているのかを読む必要がある。

直接話を聞いた情報にも、その人の立場、経験の範囲、発言した時点という条件がある。競合の担当者が参入予定はないと述べても、会社の将来の行動すべてが確定するわけではない。得た証拠によってどの前提まで判断できるかを明らかにし、なお残る不確実性を引き受けて次の行動を選ぶ。Truth seekerの仕事には、証拠を取りに行く行動力とともに、証拠が語っていないことを付け足さない慎重さが求められる。