仕事は「塊」としてやってくる
仕事は常に曖昧な塊としてやってくる。「あの件、進めておいて」「デザインをもっと良くしてほしい」「来月の発表資料を作って」——どれも一見すると指示に見えるが、そのままでは手の付けようがない。何をもって「良い」とするのか、誰に向けたものなのか、いつまでに何が必要なのか。仕事の正体は、受け取った瞬間には見えていない。
案件に入る際にはコンテキストを理解することが重要であるのは、この「正体の見えなさ」に対処するためである。どんな仕事であれ、最初にやるべきことは手を動かすことではなく、その仕事が何者なのかを紐解くことである。これは仕事の種類やレイヤーを問わない、最も根源的な原則である。
紐解くとは何をすることか
紐解くとは、絡まった糸をほどくように、仕事の構造を一つ一つ明らかにしていく行為である。具体的には以下の問いに答えることである。
なぜこの仕事が存在するのか——背景にある課題や意図を理解する。イシューの見極めが問題解決と価値創造の出発点となるのであり、表面的な依頼の裏にある本当の問いを掘り出すことが紐解きの核心である。
この仕事のゴールは何か——完了した状態を言語化する。仕事が進まない原因はアウトプットが想像できていないからであり、ゴールが描けていない仕事はまだ紐解けていない。
誰のための仕事か——成果物を受け取る人、意思決定する人、影響を受ける人を特定する。決済者の信頼は深い検討の積み重ねで得られるのであり、誰に向けた仕事かによって、取るべきアプローチが根本的に変わる。
どのくらいの大きさの仕事か——一人で一日で終わるのか、チームで数ヶ月かかるのか。この見積もりによって、段取りもスケジュール感もまったく異なる。
これらの問いへの答えが揃って初めて、仕事の輪郭が見えてくる。📖イシューからはじめよが一貫して主張するのは、この紐解きの工程を省略してはならないということである。
紐解きの結果、仕事の種類が判明する
紐解いた結果として、その仕事がどういう性質のものかが見えてくる。仕事には「明らかにする仕事」と「進める仕事」の二種類がある。ゴールがまだ定まっていないなら、まずゴールを明確にして合意を得ることが仕事の本体である。ゴールがすでに明確なら、ナチュラルプランニングモデルは人間の自然な思考プロセスを活用した効果的なプロジェクト計画手法であるに沿って段取りを組み、前に進めればよい。
重要なのは、この判別自体が紐解きの成果だということである。紐解かないまま「とりあえず」で動き出すと、「明らかにする仕事」を「進める仕事」として扱ってしまい、的外れな成果物を量産する。あるいは、すでにゴールが明確な「進める仕事」に対して延々と議論を重ね、前に進まない。仕事の種類を見誤ることの代償は大きい。
なぜ紐解きを省略してしまうのか
紐解きが省略される最大の理由は、それが「仕事をしている感」を生まないからである。資料を作る、コードを書く、デザインを起こす——目に見える作業には達成感がある。一方で、「この仕事って何だろう」と考える行為は、端から見ると何もしていないように見える。しかし目的の明確化が仕事の成功を左右するのであり、紐解きに費やす時間は仕事全体の中で最もレバレッジの高い投資である。
もう一つの理由は、紐解くことで「実はよくわかっていなかった」ことが露呈するのを恐れるからである。曖昧なまま進めていれば、少なくとも「やっている」という体裁は保てる。しかし抽象度の高い仕事は明確化と構造化によって効果的に進められるのであり、わからないことをわからないと認めることが、紐解きの第一歩である。
紐解きは一度で終わらない
仕事の紐解きは、プロジェクトの冒頭で一度やれば終わりではない。仕事が進む中で新たな情報が入り、状況が変わり、当初の理解が修正される。ダブルダイアモンドプロセスは全ての仕事に適用可能な普遍的なアプローチであるが示すように、発散と収束を繰り返しながら、仕事の解像度は段階的に上がっていく。
効果的な探索には全方位的探索から仮説検証型探索への段階的移行が不可欠である。最初は広く情報を集め、徐々に焦点を絞っていく。この探索のプロセス自体が、仕事を紐解く行為そのものである。
デザインの始まりとなるヒアリングは、プロジェクト全体の成功を左右する最重要プロセスである。デザインに限らず、あらゆる仕事において、最初のヒアリング——つまり仕事の正体を掴むための対話——がその後の全てを規定する。
紐解く力が仕事の力である
結局のところ、仕事ができる人とそうでない人の差は、この紐解きの精度と速度にある。仕事の本質はコンテキストを調理することにあるのであり、コンテキストを正しく調理するためには、まず素材を正しく理解しなければならない。
どんな仕事も、最初の一手は同じである。「この仕事は何者か」と問い、それを紐解く。イシューは何か。ゴールは何か。誰に向けたものか。どれくらいの規模か。この問いに答える習慣さえ身につけば、どんなタイプの仕事にも対応できる。なぜなら、紐解いた先に正しい進め方が自然と見えてくるからである。